敵は海賊・海賊版/神林長平

敵は海賊・海賊版 (ハヤカワ文庫 JA 178)

敵は海賊・海賊版 (ハヤカワ文庫 JA 178)

 20年以上も前に出版された作品、それもハヤカワのSFとあってか、非常に癖がある作品に思えた。そもそも本格的なSFなんかこれっぽっちも読まないので、理系人間でありながらも突然出てくるΩとかなんとかのSF的な単語に置いてけぼりをくらってしまった。解説にあったCAWシステムを使った意味とかもイマイチ納得できず、defineとかenterとかのプログラムっぽい記述には少々読みにくさを感じた。
 そして何より特徴的なのがその文体。現在では維新とか舞城とかのやたらめったら比喩表現を多用しまくりな文章がウケがいいようだけど、この作品について言えば「簡素」の2文字で済んでしまう。会話を除けば、およそ必要最低限の情報だけが記されているに近い。これもCAWシステム、つまりコンピュータによる記述だからとかいうのだろうが、簡素ということは余計な説明がない分理解力を要し、1行辺りの情報量が多いということである。自分のような読解力の弱い人間には些か厳しいものがある。
 簡素という点においては会話の中にも現れているかもしれない。主人公の一人であるアプロの言葉に「おれ、きらい」や「腹減った」など率直な、いかにもバカ的なものが多いのだけど、場合によっては分かりにくかったりもする。というか分かりにくい表現もある。
 内容の方は、二つの平行世界みたいなのが出てきて、ややこしく見えるも実際それほどでもなかった。時折「うまいなぁ」と思うところはあれど特に感動もなし。ラテルのメイシアに対する異常な愛情が不思議だったけど、大したところではないか。
 内容よりもその文体やキャラ同士の掛け合いが特徴といえる濃い作品だった。