黒白キューピッド/中村九郎

黒白キューピッド (集英社スーパーダッシュ文庫)

黒白キューピッド (集英社スーパーダッシュ文庫)

 地雷とは聞いてはいたが、まさかこんなにぶっ飛んだ作品だとは思わなかった。
 『彼の名前なんて、加藤、で十分だろう』
 この部分を読んだ瞬間にこいつはやべぇと感じた。それくらい自分の世界に入っちゃってるような文章。空の境界の解説の人がやたら指摘していた「僕こと黒桐幹也」とは比べ物にならないだろう。3人称の文章で比喩表現や詩的表現の多用はかなり厳しい。谷川流とはちょっと違った感じの読みにくさを感じた。
 そもそもが、とある書評で「学校を出よう!は1巻が一番面白いと思う人にはお勧め」と書いてあったので読んでみたのだが、外れた感は否めない。

 中身の方はというと、ネットゲームと現実、それに天使と、なかなかありがちな物語。つまらなくもないが、特に面白いというわけではない話の展開に、そのキャラクターと文章が際立つ。
 そういえば、根暗でオタクな主人公という設定は、なかなかに珍しい気がする。ほとんどかっこいいところもなかったし、魅力という魅力もない気がするけど、ネットゲームを出すなら主人公は本当はこんな感じじゃなきゃいかんのだろうなと感心した。
 一方でのヒロインは、逆に至って王道の天然で才色兼備な人気者。本来ならば出会うはずのない二人が出会ってしまったのが、王道的で運命的な出会いならば何の面白みもないご都合主義なのだが、主人公がヒロインに脅しをかけるという前代未聞の極悪な出会いだからなかなか面白い。

 あと、詩的で婉曲的な表現をする割りに、状況描写や説明が丁寧でない気がした。され竜のような分かる人だけ分かれ的な感じ。その辺と、話が飛んだりするのをなんとかすればもう少し面白い作品になったかもしれない。

 全体的に酷評気味だけど、なかなか面白い作家だと思うので今後の作品にも期待。