三月は深き紅の淵を/恩田陸

三月は深き紅の淵を (講談社文庫)

三月は深き紅の淵を (講談社文庫)

 劇中劇、というものがあるが、この作品はまさにそれ。とある一冊の稀覯本「三月は深き紅の淵を」について4部構成―――つまりは4つの視点の4つの物語から描き出している。さらに、第4部では「三月は深き紅の淵に」を書いている作者というのも出てきたりする。ややこしいながらも、こういうのを「巧い」というのだろうか。

 そう、面白いというよりも巧い。感動して号泣したり、腹を抱えて笑ったり。この本の魅力は、そういうエンタテインメント的な面白さとは違うところにあると思う。構成力とか、調和性とか、そういうところに感じる面白さとでも言おうか。なんでもないと思っていた部分が後々から関係してくる、伏線が回収されたときの感動は、本好きならば楽しめると思う。