ウィザーズ・ブレイン/三枝零一

ウィザーズ・ブレイン (電撃文庫)

ウィザーズ・ブレイン (電撃文庫)

なかなか読めないでいたが、評判以上に面白かったと思う。アクションシーンに於いては完璧に好みだったし、科学的な設定もかなりの魅力を持っていた。ただ、メインストーリーに於いては少々好みに合わない部分があった。ようは、この物語の主人公は誰か?である。主人公としては当然祐一か錬のどちらかしかいないわけだが、この二人のどちらを主人公と見るかで大きく物語の認識は変わるだろう。そして個人的には錬の物語はあまり好きではない。というのもこの手の物語はありふれすぎて、展開が読みやすいことと、ヤマ場では主人公が主に感情だけで行動を選択するので、さらに自分は主人公の青さに感情移入ができないので、つい冷めた見方をしてしまう時がある。ただ、祐一を主人公に見立てたときの、世の虚しさ、やるせなさ、それでも前に進むしかない様な物語は完璧に好みである。そして筆者はその対立する二つの考えを相殺することなく上手く調和させて、この小説を2倍の面白さに作り上げていると思う。小規模なエンジェルハウリングのようなツインシフトな物語である。あえて主人公をどちらかに絞らないで、相対するどちらもある意味では正しい考えを持ってきて、さらに良質の科学的アクションを取り入れて感動まで誘うというとってもお得な作品。