エンブリオ/帚木蓬生

エンブリオ 1 (集英社文庫)

エンブリオ 1 (集英社文庫)

 読み終えた後に背表紙の紹介文を読むと、主人公・岸川があたかも悪人のように紹介されていることに違和感を覚える。それだけ、作中の岸川の持論には正当性を感じるし、共感できるものがある。患者至上主義vs倫理の正当性はどちらにあるのか、それをどう思うかによってこの作品に対する見方はがらりと変わることだろう。
 天才医師であり、世界の最先端のさらに先を行く技術を持ちながらも、そのほとんどを論文でも学会でも発表せずに病院内だけに留めておくのは、世界の医療の発展という面ではどうかと思うが、欲がないという点においては、天才とはかくあるものかと非常に感心させられる。
 一本のまとまった物語というかは、淡々と描かれる医師の日常という感じで、特に盛り上がりのようなものはないけれど、読みやすく興味がそそられる内容なので面白かった。