ロクメンダイス、/中村九郎

ロクメンダイス、 (富士見ミステリー文庫)

ロクメンダイス、 (富士見ミステリー文庫)

 こいつはすごいっ!
 良かれ悪かれ、これほどの衝撃を受ける作品は久しぶり。さすが地雷大賞ブッちぎっただけはあるよ。黒白キューピッドもすごかったけど、これはシャレにならない。よく編集部がこんなもの出させたなって感心するわ。
 さて、どこがどういう風にすごいのかと挙げていけば際限無い気もするが、まずはその文体。黒白キューピッドでも見せた、そのカッコつけすぎとも自意識過剰とも、若しくは自慰的文章とも取れるような文章が、この作品独特の雰囲気を醸し出す。
 この作品は終始1人称で描かれているが、序盤に次のような文がある。

 描写はできる限り質素である方が良い。
 季節は冬、天気は曇り、雑踏の街角。ぼくは十六歳の高校一年生、名前はハツ。

 まあ、全体的にこんなコンセプトの文章。流水大説が説明過剰と言われているのに対し、逆にこの作品は説明を極力省略している。つまりは、読みにくい。ひたすら読者に優しくない文章のように思う。
 そして、その異様な省略は文章だけにとどまらず、時に物語の展開を飛躍させる。突っ込みどころは満載、これは本当に日本語かという嘆き。
 しかし、端的に描かれた世界、接続詞の少ない物語において、何かを感じ取れることができるなら、ある意味極上のエンタテインメントではなかろうか。
 この詩的すぎるとも言えなくない作品に、少しでも文学っぽいものを感じ、満足できた自分はおそらく、次もこの人の作品を買うだろうなぁ。